投稿日:2024.04.15 最終更新日:2024.12.09
大規模修繕の周期は12年→18年に延長できる?建物の劣化状況の診断が大切
目次
大規模修繕の実施時期・周期の目安
一般的に12年周期で実施されることが多いですが、これには国土交通省のガイドラインの影響や、特定建築物定期調査における全面打診調査の義務化、塗膜などの劣化を考慮していることなどが理由として挙げられます。
しかし、大規模修繕の実施時期は、マンションの具体的な劣化状況に応じて前後することがあります。
まずは築10年目に行う初回診断で、正確な劣化状態をしっかり把握し、その後、外壁を中心とした修繕から、内部の付属部位も含めた修繕へと範囲が広がっていきます。25〜30年を超えると、建物全域にわたる修繕や設備の更新、耐震補強なども必要になります。
計画的な修繕を行わないと、劣化が進行し修繕費用も増大してしまいます。
まずは、12年を基本周期としつつも、マンションの個別状況に合わせた調整が大切です。
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マンションの大規模修繕の実施時期・周期(タイミング)の目安 一般的に、大規模修繕の実施周期は12年ごととされていますが、これは劣化状態の診断に基づき、適切な計画を立案するためです。 周期に目安はありますが、実際の時期はマンションの具体的な劣化状況に応じて決定します。 例えば、建物の日常的な保守・点検がしっかりされているか、環境が建物に与える影響(塩害など)が少ない地域か、高品質の材料で建築されたたかどうか、などの要因によっては18年に、修繕周期を延長できる場合もあります。 このような延長ができるかどうかは、定期的な建物診断を行い、その結果を基に計画的に行う必要があります。 関連記事 マンションの大規模修繕は12年周期が一般的? マンションの大規模修繕は、一般的に12年周期で行われることが多いですが、その理由には主に3つの要因があります。 1.国土交通省が公開している「長期修繕計画作成ガイドライン」の影響 平成20年版のガイドラインでは、大規模修繕工事の周期を12年程度とする例が紹介されていました。 これを参考にする管理会社や設計事務所が多かったため、12年周期が一般的になりましたが、あくまでも目安として示されているだけで、12年周期を定めているわけではありません。 2.特定建築物定期調査における全面打診調査の義務化 改正建築基準法により、竣工・外壁改修後10年を経た建築物は、全面打診等による調査が義務付けられました。 全面打診調査には足場が必要なため、大規模修繕と同時に行うことでコストを抑えられることから、12年目に大規模修繕を実施するケースが増えました。 3.塗膜などの劣化を考慮しているため マンションに使用される塗料の寿命は8〜12年程度と言われており、12年以上経過すると浮き、ひび割れ、欠損などが進行し、コンクリート躯体を十分に保護できなくなります。 15年周期で大規模修繕を行う場合、次の修繕までの間隔が長くなるため、劣化が進み、修繕費用が高額になる可能性があります。 大規模修繕の周期を18年に延長できる場合も マンションの大規模修繕工事は、一般的に12年周期が多いですが、近年「過剰・不要な修繕費用にまで修繕積立金を払いたくない」と考える管理組合が増加していることを受け、大手マンション管理会社が提唱しているのが「大規模修繕工事の周期延長」です。 高耐久化の工事を行うこと(例えば、高耐久タイプのシーリング材を使用するなど)で、周期を16〜18年程度に延長し、トータルでの大規模修繕工事の回数を減らすことで、長期的に大きなコストダウンが可能になります。 ただし、長周期化によるコスト削減効果を正確に把握するためには、竣工後60年程度の長期修繕計画を立案する必要があります。 また、建物の劣化の度合いは、立地環境や施工品質、使用材料の性能などによって異なるため、一律に修繕期間を決めるべきではありません。 また、管理組合の財政状況を考慮し、12年周期での大規模修繕が難しい場合は、周期を延長することも検討すべきでしょう。 大規模修繕の周期を18年に延長できるのはどんな場合? 主に、建物のメンテナンスが非常に良好に管理されている場合、使用されている材料の耐久性が高い場合、または先進的な技術や改良された建築方法が用いられている場合に延長が可能となります。 具体的には、建物の日常的な保守・点検がしっかりと行われており、小さな修繕が迅速に対応されている場合や、環境要因が建物に与える影響が少ない地域(塩害のない地域かどうかなど)である場合、最初から高品質の材料を使用して建築された建物では、大規模修繕の必要性を抑えることができ、修繕周期を延長することが現実的に考えられます。 しかし、このような延長は、専門家による定期的な建物診断を行い、その結果を基に安全性を確保しつつ計画的に行う必要があります。 例えば、定期的に外壁の打診調査やシーリングの点検を行い、必要に応じて部分的な修繕を加えることで、全体の修繕周期を延ばすことが可能です。 また、建物全体の構造的な安全性に問題がなく、内部設備や外装の小さな劣化がしっかり管理されている場合にも、大規模修繕の周期を延長することが考えられます。
築年数ごとの修繕内容の目安
マンションの大規模修繕では、建物の各部位や設備ごとに修繕・更新の時期の目安があります。築年数に応じたメンテナンスポイントと修繕箇所は以下の通りです。
築4~6年 | 鉄部塗装などの劣化兆候が現れ始めるため、建物点検報告書を確認し、長期修繕計画の見直しを行います。 |
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築7~10年 | 大規模修繕工事に向けての準備期間です。建物点検報告書を確認し、建物診断の受診をおすすめします。修繕箇所は鉄部、屋根、屋上、給水ポンプ、雨水排水ポンプなどです。 |
築11~15年 | 第1回大規模修繕工事(屋上防水・電気設備)、インターホン等の修繕を実施し、長期修繕計画を見直します。修繕箇所は鉄部、外壁、屋根、屋上、電灯設備、廊下・階段、バルコニー、インターホン、TVアンテナ等、消火栓等、エントランス、集会室等、機械式駐車場、付属施設、車道・歩道・植栽等です。 |
築16~20年 | 鉄部塗装・屋上防水、自火報関連、機械式駐車場、給排水ポンプ等の修繕を行います。設備診断の受診をおすすめします。 |
築21~25年 | 第2回大規模修繕工事(給水管交換)を実施し、長期修繕計画を見直します。修繕箇所は第1回大規模修繕工事に加え、エレベーター、給水管、雑排水管、給水ポンプ、雨水排水ポンプなどです。 |
築26~30年 | エレベーター交換、インターホンの修繕を行います。 |
築31~40年 | 第3回大規模修繕工事(玄関ドア交換、サッシ交換、手摺交換)、排水管更新を実施し、長期修繕計画を見直します。機能・性能・材質面の更新を含む改良工事の検討が必要です。 |
建物本体では、傾斜屋根、陸屋根・ルーフバルコニー、外壁、雨樋、ベランダ、階段・廊下などの修繕時期の目安は11~15年目となっています。
室内設備では、給湯・バランス釜、エアコン、浴室設備、厨房設備、洗面化粧台、トイレなどの修理の目安が5~10年目、一斉交換の目安が11~15年目となっています。
その他、配管、外部建具、外構、浄化槽、給水設備、エレベーターなどの修繕・更新時期の目安も部位ごとに異なりますので、各劣化状況を定期的にチェックし、適切な時期に修繕・更新を行うことが重要です。
大規模修繕の周期の、建物の種類による違い
マンションの大規模修繕の周期は、建物の種類によって異なります。
分譲マンションの場合、修繕委員会などが設置され、ガイドラインに基づいて大規模修繕が実施されます。
一方、商業ビルや賃貸マンションなどの収益ビルの大規模修繕は、オーナーの判断により行われ、具体的な周期を定めたガイドラインはありません。ただし、建物の規模によって1年ごとか3年ごとの定期報告が必要であり、外壁の全面調査も義務付けられています。
収益ビルの大規模修繕の周期
収益ビルの所有者は、適切な補修や修繕を行うことで資産価値を維持し、新技術を導入するリノベーションにより資産価値を向上させる必要があり、これは店舗やオフィスへのリーシングを行う上でも重要な要素となります。
さらに、建物の所有者には管理責任があり、漏水などの事故が発生した場合、店舗への賠償責任が生じる可能性もあるため、安全性の確保は重要です。
収益ビルの大規模修繕の周期は、日常のメンテナンス状況により異なるため、一概に決めることはできません。ただし、建材の平均的な寿命などを参考に、大まかな目安を立てることが重要です。
例えば、屋上防水の耐用年数は、アスファルト防水で15〜25年、シート防水で10〜15年、ウレタン防水で10〜12年となっています。
外壁塗装や屋上防水、エレベーターや給排水管の交換といった様々な箇所の修繕や改修のタイミングや費用を、あらかじめ長期修繕計画として立てておくことが重要です。
この計画をもとに、実際の建物調査により具体的な計画立案を行い、5年程度ごとに見直しを行うことが推奨されます。長期修繕計画を立て、修繕に必要な資金の目安を作り、修繕積立金の額を想定することで、利益の確認もできるようになります。
大規模修繕のタイミングは建物の状況によって異なる
同じ築年数や戸数であっても、建物の形状、構造、環境、管理状況などの要因により、劣化の進行や故障の発生は建物ごとに異なるため、一律に周期や回数を決めることはできません。
大規模修繕の実施については、各管理組合が建物の状況を見極めて判断することが多いです。
一般的な目安としては12~15年程度とされており、大規模修繕工事のタイミングは、長期修繕計画に記載されています。
近年、大規模修繕の周期を延ばす動きも出てきましたが、実施時期は建物の状況に大きく依存します。適切な時期を判断するために、まず建物診断を行い、現状を確認することが重要です。
多くのマンションでは、築10年を超えた頃から情報収集や修繕委員会の立ち上げ、建物診断の実施など、少しずつ準備を始めます。
大規模修繕工事の準備には通常1~2年程度かかるため、工事時期を延ばす場合はさらに検討時間が必要になります。
大規模修繕工事は資金計画とも直結しているため、長期修繕計画は5年ごとに見直し、現状を反映させることが重要です。
大規模修繕の前に建物診断、全面打診調査を実施する
マンションの大規模修繕を行う前には、建物の状態を正確に把握するために、建物診断と全面打診調査を実施することが重要です。
建築基準法では、建築物の所有者、管理者、占有者は、建物を常に適法な状態に維持するよう努めなければならないと定められています。
特に、平成20年4月の建築基準法改正により、タイル貼りやモルタル仕上げのマンションは、竣工や改修から10年を経過した場合、3年以内に外壁の全面打診調査を実施することが義務付けられました。
この調査は、外壁のタイル落下事故を防止することを目的としています。
全面打診調査には足場が必要であり、コストがかかるため、大規模修繕工事と同時に全面打診調査を行うのが効率的です。
これが、12年ごとに大規模修繕工事を実施するという考え方が一般的になった理由の一つです。
5~15年ごとの建物診断で修繕の実施時期や修繕範囲を決める
建物診断は、日常点検や定期点検とは別に、概ね5~15年ごとに行われ、長期修繕計画に記載された全ての項目を対象とします。
診断方法には、目視、打診、触診、機械による計測調査などがあり、詳細な調査が行われます。
建物診断の結果は、大規模修繕の実施時期や修繕範囲、修繕仕様を決める根拠となり、おおまかな修繕費用の概算も算出できます。建物診断には無料診断と有料診断の2種類があります。
無料診断は簡易な目視や触診、打診などを行い、一定の劣化や不具合を確認する診断で、一方、有料診断は、目視や触診、打診に加え、機械調査まで行う場合が多く、費用は建物の大きさや形状により数十万円から数百万円程度かかります。
複数の工事会社や調査会社による建物診断や工事見積を受けることで、多様な視点からの診断を受けることができ、見落としリスクの軽減につながります。
大規模修繕は数を重ねるごとに内容や改修箇所が変わる
最初の大規模修繕工事が築後12年頃に行われるとすると、2回目は築後24年頃に実施されますが、2回目以降の工事は、建物の劣化度合いが1回目とは異なるため、改修内容も変わってきます。
1回目の大規模修繕は主に建物の外部を中心に行われますが、2回目では建物内部の付属的な部位やパーツの改修も含まれるようになり、3回目になると、建物内部の主要な設備や部材の更新に加え、耐震補強工事や省エネ化工事といった時代に合わせた工事も求められることがあります。
回を重ねるごとにコストが増大していくことは避けられないため、修繕費用の確保を適切に想定しておく必要があります。
また、新築時には最先端の機能・性能を有していた建物でも、築年数が経てば陳腐化してしまうことがよくあります。居住者のニーズに応じて、大規模修繕と合わせてリフォーム、リニューアル、リノベーションといったグレードアップの工事を実施することも必要となります。
大規模修繕の目的が「維持」から「機能復旧・アップグレート」へ変わっていく
1回目の大規模修繕では建物の維持・保全が主な目的ですが、2回目は機能復旧、3回目では機能復旧に加えてグレードアップが目的となります。
大規模修繕工事は、仮設工事、下地補修工事、タイル補修工事、シーリング工事、外壁塗装工事、鉄部塗装工事、防水工事など、複数のステップに分けて行われますが、2回目以降の工事では、建物の劣化具合に応じてより多くのステップで、踏み込んだ工事が必要となり工事期間も長く、費用も高くなる傾向にあります。
3回目以降になると、排水管やサッシ、電気設備などの工事やバリアフリー設備の増設なども考慮する必要があり、さらなる費用の増加が予想されます。
マンションの大規模修繕工事は、25~30年の長期的スパンで考えるべきものであり、12年周期をひとつの目安として、工事と費用を確保するためのロードマップを作成しておくことが重要です。
この記事を書いた人
結城 伸太郎
職歴:27年
得意分野:防水工事・外構工事・大規模改修管理業務
保有資格:1級建築施工管理技士、1級建築塗装技能士、1級ポリマーセメント防水、1級改質アスファルト防水、外壁1級仕上げ技能者、防水登録基幹技能者、外壁仕上基幹技能者、国際ライセンス サーモグラファーレベル1、監理技術者、職長安全衛生教育、他